<はじめに>
昨今、「マンションの大規模修繕工事の闇」と言われ、コンサルタントとして関わる管理会社や設計事務所の対応が問題視されています。本来であれば専門知識を持たない管理組合様やオーナー様の立場に立って工事の設計や監理を支援するものですが、残念なことに談合に関与してバックマージンを受け取ったりするケースもあります。最近ではその手口も込み入ってきており、マスコミでも大きく報道され国交省も通知を出して注意を呼びかけています。
大規模修繕工事は建物診断から始まるため、コンサルタント業務の中で建物診断を安くしたり、極端な場合は無料の見積を提出して参加する事例が存在することも報告されています。
弊社は2001年の創業以来、建物診断と工事の分離を一貫して唱えてきました。そして、第三者の立場であくまで管理組合様の側に立ってコンサルタント業務を推進してまいりました。それを可能にしたのは、企業の系列に属さず工事部門も保有せず、建物診断から工事監理に至るまで独自の経営を行ってきたからです。コンサルタントの使命は徹頭徹尾、管理組合様・オーナー様を支援することであると宣言いたします。
<マンションのライフサイクル>
ライフサイクルとは通常「導入期」→「成長期」→「成熟期」→「衰退期」の4段階と言われますが、建物については「誕生」→「衰退」となり、極論すれば竣工と同時に劣化が始まることになります。
すなわち、衰退の速さをできるだけ遅らせることが建物の長寿命化につながり、大切な財産価値を維持することとなります。
そして、そのためには建物の計画的な修繕工事が必要であり、それによって建物をより長く使えるとともに修繕費用も節約することができます。
建物の竣工から解体に至るまでにかかる費用を「ライフサイクルコスト」といいますが、その総額は建設費(企画・設計費含む)≒マンション購入金額のおよそ3~4倍になると言われています。したがってどのようにしてその費用を抑制するかが大切になってきます。
<マンションの維持管理>
建物は定期的に点検を行い、劣化の現状や程度を正しく理解しておくことが大切です。
新築マンションには一定の不具合が発生した場合に、瑕疵の有無を問わず、売主または施工業者が無償で補修するためのアフターサービス規準が定められています。日常的な点検とは別に各部位別に2年間、5年間、10年間のサービス期間が設けられています。特に10年目については「住宅の品質確保の促進等に関する法律」によって義務化されています。一般社団法人 不動産協会では新築住宅のアフターサービス基準を決めています。(中高層住宅アフターサービス基準)
特に最近では外壁の剥離や落下が問題になっていますが、2年間のサービス期間ではタイルやモルタルの浮きも保証されていますので、2年目の点検はとても重要です。
管理組合として2年目、5年目、10年目何れの場合も第三者である専門の技術者の点検を受けて隠れた瑕疵を発見し、売主の責任で修繕してもらうのが賢明です。
<設計管理方式と責任施工方式>
マンションの資産価値を維持するためには、大規模修繕工事を適切に実施する必要があります。
管理組合が大規模修繕工事を検討するに際して、工事の発注方法には大きく分けて「責任施工方式」と「設計監理方式」の二通りの方法があります。
責任施工方式とは、マンション管理組合と工事施工会社が工事請負契約を結ぶ方式です。この場合、調査診断、改修設計、資金計画から実際の工事、監理までの全てを工事会社が行います。
設計監理方式とは、第三者(専門家)であるコンサルタント会社が調査診断、改修設計、工事施工会社選定補助、工事監理などを管理組合から受託する方式です。
最近では第3者の立場で公平且つ公正に業務を進めていくことができる「設計監理方式」を採用する組合が増えているようです。
「責任施工方式」と「設計監理方式」の比較
責任施工方式(工事業者に全てを委ねる方式) | 設計監理方式(設計・監理と工事を分離する方式) | |
相手方 | 施工会社 | 設計事務所 |
参加形態 | 管理組合―工事業者 | (管理組合+設計事務所)―工事会社 |
負担(労力) | 施工者決定までは自主作業、以降は業者に委ねる(負担殆どなし) | 管理組合参加型のため労力は掛かる(負担あり) |
建物診断 | 無料・ディスカウント価格診断(実際は工事費に含まれる) | 費用を要する |
設計 | 各施工会社の提案による(提案内容が異なるため比較するのが困難) | 事前に仕様書・数量書・その他必要図面・設計予算書(概算工事費)を作成するので工事の適正価格を把握できる |
施工業者選定 | 組合選定(見積合わせ) *内部推薦、営業等 | 選定基準を設定し、公募・推薦などで見積依頼業者を決め、設計図書を基に競争入札によってヒアリングなども加味して決定(専門家による助言) |
見積精査 | 各社毎に仕様が異なるので比較が困難 | ※各単価や全体のバランスを精査(競争原理が働くので合理的) |
決定基準等 | 管理組合基準 | 価格と品質をポイントに見積内容の精査を充分に行い、ヒアリングでそれらを確認する。経営状態や業界の評判、実績等を総合的に判断して高品質・低コストを基準に業者を選定 |
工事監理 | 監理はなし | 管理組合の側に立って工事監理業務を行い、工事業者を適切に指導する。 |
※ 大規模修繕工事は修繕積立金を原資として大変な高額になります。管理組合様が主体となって丁寧に進めてください。